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リレー・エッセイ 第11回 インドア派キコリのお仕事

thumb hidden farm 秋のある日、来年間伐をしようと準備をしている森に出かけた。そこは峰の乗越を超え、ちょっと下ったところにある。こんなところになんで畑が? うっそうとした森に囲まれ、まるで隔離されたような空間に、ちょっと異次元めいた感覚があるところ。

 近年野生の獣が畑を荒らしにやって来るようになった。「周りの木を切ってくれないか」と畑を作っている人から相談を受けた。畑の周りにぐるり電気柵を巡らすそうだ。すでにイノシシやシカのために金網のフェンスは立てている。今回の敵はサルである。木を伝って侵入してくる相手を退散させねばならない。そこでまず畑を囲み、覆いかぶさってきている木々をちょっとばかり切らせてもらい、その後に電線を張ってイタズラしに現れたサルをビビらせて、近づかない様にしようという作戦である。

 初めて接する山で木を切るにはまず、山の持ち主を探さなければならない。我々は木を切る仕事をしているとは言え、自分の木ではない、自分の山でない。人様の山の木を伐らせていただいて“なりわい“としている者である。「どなた様の山ですか?」 ひと昔と違って、今は持ち主が誰かを探るにも、やれ個人情報だのプライベートがと難しい時代になった。お金を出せば教えてくれる国の役所もあるけれど、百も二百も筆(土地の区画)があったらいかほどになるか。

 山の持ち主がわかったら、その方々と契約を結ばなければならない。山の木を育てるための業を、我々に託しても良いとの証である。山とはいえあくまで個人の所有物。これがいただけないと手出しは出来ない。まずは名前を頼りに電話帳で探すものの、そのお名前が先代、先々代、さらに先々々代だったりして、電話帳にあるわけない?近頃はインターネットで住所を入れると、その場所を指し示してくれるという便利なものや、その場所の写真まで示してくれる優れものもあり、都合よく使わせてもらっている。そんなこんなで山主さんへたどり着き、玄関のベルをピンポンと鳴らすに至る。

 ここからが本当の出発点。ようやく山の話のあれこれが始まって、山主さんに了解してもらえれば、ようやく実在する“森と木々”と対峙できる。アウトドア派キコリの仕事の出番になるというわけ。

thumb beer hopホップ 山からの帰り道、畑に面した土手になにやら黄緑色のスカスカの実があるのを見つける。目を凝らすとアチコチにフサフサとタワワに実っている。手でつまみ取り、揉んで匂いを嗅いでみる。これはもしかしてホップ?ビールの苦みと香りの素。なぜこんなところに?これ使えるのかな?これで出来るかな?ひとりインドア派キコリのよからぬ妄想は膨らんでいく。

(大町市定住促進アドバイザー:立花康一)