第47回 大町市での「水と暮らし」

この地域に住んでいると、水との関わりや思いがとても大きい。

かつて、大阪に住んでいて塾の先生をしていたころ、都会の水は美味しくないというので、生徒たちと、冷やした水道水と生ぬるい浄水器を通した水とどっちがおいしいか実験をしたことがある。もちろん、浄水器を通した水の味はぬるくても全然違っていた。しかし、ここでは、冷やさなくても冷たくておいしい水が年中当たり前に水道で飲める。私は手打ちうどんの店をしているので、冷たくておいしい水はとても重要だ。

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自家製手打ちうどん

我が家の宿のお客さんは、我が家の水道の水がおいしいと、よく水筒に入れて持ち帰った。そして、阪神大震災のときにはタンクに入れて被災した親族に送った。この地域には市営の簡易水道以外に集落水道があるが、その地域の皆さんは自分たちで水道を守っている。集落水道は市営水道が断水しても出るので、そういう時は水をもらいに行くこともある。

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春の風景

信濃川、千曲川、犀川の水源になるこの地域の人は、これまでも水を大事にしてきた。移住してすぐの頃は、地域で行う春の川掃除が、朝5時開始で驚いた。さすがに今は6時からになっている。

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地域の河掃除

私は、毎年春になると、湧き水が出る知人の所有する山に、こごみ、ワサビなど山菜を取りに行く。

そこには水筒を持っていく必要がなく、流れ出るおいしい水をそこで飲める。

その地域の人たちは、その水を地域水道とするために毎年山の整備をしている。

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沢と山菜

移住してから今まで、ずっと稲作を行っているが、稲作を始めた頃は、田んぼに上の水路から水が来なくて、共同のポンプで下の水源地の池から水をくみ上げ、水の確保のために努力してきた、先人たちの思いを知った。今の田んぼでは、上流の川から水を引いて使っているが、多くの人たちが同じ水を田んぼに使っているので、お互いに気を使い、分けあっている。移住した当時は、勝手に水路の水を家の庭に引き込んだりして、水を使うルールを知らずに、近所の人に叱られたものだ。今でもその水路は地域みんなで掃除し、草刈りして管理をしている。

我が家の田んぼには、時々上流の川から流れてきたイワナが泳いでいる。その水のきれいさと冷たさに驚くが、稲の生育には適さない。かつては、水のかけ口には冷たい水に強いもち米を植えるという工夫をしていたと聞く。

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我が家の田植え
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学校の田植え

大町にいると水にまつわる遊びもいろいろある。黒部ダムはもちろん、大町ダムや高瀬ダムなど季節によりダムを見に行くことも多いが、木崎湖や中綱湖、青木湖での湖水浴や、釣り、カヌーなどの遊びもした。渓流釣りができる地域の川での、ニジマスやイワナのつかみどり体験は、この地域ではみんな一度はやったことがあるはず。我が家の子どもたちはサワガニやどじょう、タニシなどを採ったりもしていた。遠足などでも地域の川で水遊びをすることも多いし、生活科や総合学習の授業の中で川をテーマに地域の人から学ぶことも多い。

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木崎湖でカヌー
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岩魚つかみ体験
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岩魚塩焼き
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遠足で蛍のいる川で遊ぶ

近頃は、私は地域の有志とイワナの養殖をしている。毎年2500匹ほどのイワナを育てて、地域の学校給食や家庭科、理科などの授業に使ったり、イベントでの販売や、老人施設へ販売しているほか、我が家の宿で使ったり、弟の大阪の店にも送っている。春から秋まで餌やりも交代でやるが、川や水の管理が、特に、水の少なくなる夏や大雨の降る梅雨時には大変ではある。それでも関わる仲間はそれを楽しんでいて、食べてくれる人たちへの思いをこめて育てている。大の大人がまるで子供のようにはしゃぎながら川遊びをしているようで、私はそうした姿が大好きだ。そして冬に雪が降らないと水の心配をする。イワナの養殖を始めてからは、それはなおさらのことだ。

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岩魚養殖池での作業
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イワナの解剖調理授業

水源地であるここの水を守ることは、延々と海までつながっているがゆえに、都市部の人の飲み水や海洋資産まで守っていることにもつながる。

長野県民は森林税という県税を払っているが、田んぼの維持もそうだけれども、森を守ることは水を守ること。そうした長野県民の努力や思いを、都会の人も知っていて欲しいとも思う。守り続けるこの水、きれいな川は地域の誇りでもある。

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冬景色