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第69回 命をいただく

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今年の2月、調理師会の大先輩から電話がかかってきた。

『小田くん、鹿肉いる?』
 ─『はい、欲しいです。』
『じゃあ、あとで持っていくね。』
 ─『ありがとうございます!』

この大先輩には以前から鹿肉をはじめイノシシ肉、熊肉などのジビエと呼ばれるお肉を何度も頂いていた。いつも1~2kg 位ずつに小分けにされ、ビニール袋に水とともに入れられ冷凍されたものを頂いていた。今回もその状態のものを頂けるものだと思っていた。30分後、その大先輩は軽トラックでやって来た。荷台に鹿の骨付きモモ肉とスペアリブを乗せて!解体して間もないとのことだ。

スペアリブは 40 cm × 30 cm 位のサイズ。モモ肉は、人間でいえば股関節から膝まで、重量は8kg 位。大きいバンジュウ(業務用の調理容器)に雪とともに入れられていた。うちにはそんなに大きいバンジュウがないため、雪かきの時に使う“ママさんダンプ”と呼ばれている雪かき道具にとりあえず雪と一緒に入れておくことにした。

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雪とともに届けられた鹿肉

次の日、いよいよ鹿肉を骨から外す時が来た。“ママさんダンプ”の中で雪に埋まっている鹿のモモ肉を引っ張り出す。8kg はなかなかの大きさと重さだ。厨房の作業台の上をきれいにし、オーブン用の天板を並べラップをしてその上に骨付き鹿モモ肉を置いた。こうして対面してみるとやはり大きい。仕事柄、塊肉はよく扱うが、せいぜい4~5kg 程度だ。どこから包丁を入れようかとマジマジ見ていたら、なぜだか鹿の姿が頭に浮かんできた。鳥肌がたった。当たり前のことだが、私たちは生きている動物をと殺して、それを食べて生きているのだと改めて実感した。命を頂いているのだと。

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8 kg の鹿肉を解体
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簡単にはいかない
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ありがたく戴きます

今まで丸鶏や骨付きの塊肉を幾度となく扱ってきたが、こんな気持ちになったのは初めてだった。いざ入刀。骨に沿って包丁を這わせていく。魚をおろす時に使う出刃包丁を使った。骨と繋がっている腱が硬く、なかなか簡単にはいかない。動脈なのか静脈なのかはわからないが、太い血管から深紅の血が溢れ出てくる。解体して間もないとのことだったが、血抜き時間が充分ではなかったのか。この溢れ出て来る血が、余計に生きていたのだということを感じさせた。

現代は飽食の時代と言われている。簡単にいつでも食べ物を口にすることができる。簡単に手に入るがゆえに、食べ物に対する扱いも粗末になってきているのではないだろうか。

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鹿の姿が頭に浮かんだ…

外食産業でも毎日のように大量の残食が出て、食べ物が捨てられている。長野県では『食べ残しを減らそう県民運動~e・プロジェクト~』というのをやっている。とてもいい取組だと思うが、どれだけ県民や飲食関係事業者に浸透しているのだろう。

また、大町市には生ゴミをたい肥化できる施設もある。もちろん食べ物を捨てないのが一番だが、せめて出てしまった生ゴミはたい肥化してまた土に返し、循環させたいものだ。

肉も魚も野菜も皆生きているのだ。私たちはその命を頂いて生きているのだ。必要なものを必要なだけ頂く。食べ物を無駄にしない。当たり前のことだが忘れがちなこと。今回、鹿肉を頂いて改めてそのことを考えさせられた。


小田純司(大町市定住促進アドバイザー)


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